ともだちを失う方法

今どきそんなことをしている人がいるとは思わなかった。

年末に「女だけで忘年会がてら家に集まらない?」と言われ、応じた。招かれた先はホストの娘の家だった。建てて間もないらしく、それはもうピカピカで、今どきの間取りらしくリビングが1階のほとんどを占める。上がるとアイランドキッチンで母娘が仲良く迎えてくれた。内心、「住所だけ聞いて来てしまったが、新築祝いを持ってきたほうがよかったかな」と焦った。

着いて違和感を覚えた。「他は誰も来ないの?」てっきり周囲の人間にも声を掛けていると思っていた。しかし、来るのは私一人らしい。アイランドキッチンには調理器具やら食材が溢れんばかりにあるが、どれもこれから料理を始めるところだ。

それでも「年末で皆都合がつかなかったのか」くらいにしか思わなかった。リビングで待たせてもらおうかと座るがすぐキッチンから声がかかる。手伝わないわけにもいかないが、何せエプロンも気持ちの準備もしておらず、多少のおめかしをしてしまって台所に立つのもなんだか具合が悪い。

しかし、母娘は気にするふうは一切なく、しきりに「このお鍋でこんなこともできるのよ。すごいでしょう」「ホラ、こんな料理が簡単に(できる)!」「見て。汚れがスッと落ちるでしょ。他にこんなのないわ!」「私料理全然できなかったんだけど、これを使い始めたら夫が”料理上手な奥さん”って自慢しちゃって」


まるでショップチャンネルそのままだ。曖昧な返事をしながら、母娘の異様な会話の盛り上がりに身の置き所がない。
もうご賢察だろう。これらの調理道具を私に買わせたいのだ。メーカーも全部統一、加入した会員だけが買えるシステムのものだ。

最初にできた料理はすっかり冷めていた。『…今日 呼んだのは、これが目的?』包丁を手に持つ相手に微妙な切り出しだが、これ以上この場にいたくなかった。「久しぶりにゆっくり話がしたかっただけ」「買わなくてもいい」が当初の台詞。

しかし、やはりこの態度を想定していなかったのか理論が綻び始めた。

『悪いけど、おいとまするわ。』と帰り支度をすると追いかけて来て娘が"ちょっとひどいじゃない。せっかくこっちがこれだけの用意しているのに"と怒り始めた。言い争いは本意ではないので『忘年会費、おいくらかしら?』と返す。娘は”そんなんじゃない。人として失礼だ”と怒る。熨斗をつけて返したいとはこのことだ。

結局、「裸で悪いけど新築祝いよ」と置いて来た。年明け、同じ目に遭った人がほかに居ると聞いた。最初は親しい人を招いていたが一様にそっぽを向かれたため、さほど親しくない人にまで声を掛けているのだとか。

今では彼女から声がかかると家に行かない+他にも声を掛けるならね、という暗黙のルールが広がっている。